交通事故の裁判とは?|誰でも簡単に分かるようにプロが解説

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交通事故に遭った被害者の方は、治療が終了した後、加害者の任意保険会社と損害賠償(示談金)の交渉を行うことが通常です。

そして、示談金が十分な金額ではないと思われる場合、増額を求めるため、裁判を行うかどうかを検討することになります。

もっとも、裁判を行うかまたは示談に応じるかを判断するためには、交通事故の裁判の流れ、裁判にかかる費用や期間、裁判所に提出する書類の収集や作成、裁判所でどのように振舞えばよいのかや、裁判を行うことによる示談金の増額の見込み等の正しい理解が必要となります。

仮に裁判を行っても、裁判に要する費用が増額できた金額を上回ってしまった場合には費用倒れとなってしまいます。

また、裁判を自分で行うことができるのか、弁護士費用を払っても弁護士へ依頼した方がよいのかについても疑問があると思います。

そこでこの記事では、1000件以上の交通事故の相談実績を有する大隅愛友弁護士が、「交通事故の裁判」について徹底解説します。

1 交通事故の裁判の流れ・全体像を知りましょう

交通事故の裁判を起こすかべきどうか、自分で行うか弁護士へ依頼した方がよいかを考えるために、まずは交通事故の裁判がどのようなものなのかを知りましょう。

交通事故の裁判の全体像

交通事故の裁判の流れ

交通事故の裁判にかかる期間は半年~1年半

交通事故の裁判にかかる期間は平均して約13か月(裁判所統計)とされています。

これは平均なので、半年のケースもあれば、1年半から2年になるケースもあります。約20%のケースは半年程度で終了しています。裁判の途中で賠償金が支払われることは通常ありません。出来る限り早期に賠償金を手にするためにも、スピード感をもって計画的に裁判を進めることが大切です。

平均審理期間

割合

6ヶ月以内

16.7%

6ヶ月超1年以内

39.1%

1年超2年以内

36.7%

2年超3年以内

6.0%

3年超5年以内

1.4%

5年を超える

0.1%

※ 「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」【資料2-2-1】より
※ 令和2年に結審した事件の統計

交通事故の裁判にかかる費用

交通事故の裁判にかかる費用は主に以下のものがあります。

交通事故の裁判にかかる費用

2 裁判を起こすべきか判断する方法

裁判を起こすべきケース

交通事故で裁判を起こした方が良いケースとして以下のものが挙げられます。裁判は加害者が話し合いに応じない、または、十分な金額を提示しない場合でも、判決をとることで賠償金の増額や強制執行を行うことができます。

以下のケースは、いずれも賠償金額に大きな影響を及ぼしたり、任意での話し合い(示談)の成立が難しいケースとなります。

保険会社が不十分な賠償額しか認めない

賠償額が高額である場合

加害者が任意保険に加入しておらず賠償に応じない場合

過失割合で折り合いがつかない

裁判を起こすべきではないケース

反対に、以下のようなケースでは裁判を起こすべきかどうかを慎重に判断する必要があります。

①裁判をしても賠償金の増額が見込めないケース
交渉段階で「裁判基準」での提示がなされているような場合は、裁判を行っても大きな増額は見込めません。

②すぐに示談金が必要な場合
交通事故の裁判にかかる期間は半年~1年半です。この間は示談は受け取れません。

③裁判にリソースを避けない場合
裁判には、裁判の費用の工面や書類の準備、裁判への出廷等の様々なリソースが必要となります。

④敗訴した場合、賠償金の減額のリスクがある場合
裁判を行っても賠償金が必ず上がる訳ではありません。過失割合の争いがあり、裁判で自分に不利な認定がなされると賠償金が減ってしまう可能性もありますので、注意が必要です。

交通事故の裁判を起こすことで増額が見込まれるかを判断する方法

交通事故の裁判を起こすことで、慰謝料など賠償金の増額が見込まれます。

具体的には、「裁判基準」による慰謝料、逸失利益を獲得できることが見込まれます。裁判を行う前は、裁判基準よりも相当低い、最低限の「自賠責基準」や保険会社が独自に定める「任意保険基準」で提示されことがほとんどです。  

裁判で争われることが多い、傷害慰謝料を例にして「裁判基準」を説明します。

(傷害慰謝料について裁判基準の表。むち打ちなどで用いる別表Ⅱ)

例1:むち打ちで通院のみ6か月の場合の傷害慰謝料・・・赤囲み枠
裁判基準・・・89万円
任意保険基準・・・40万円~55万円
自賠責基準・・・1日4300円×日数 (ただし、上限あり)

例2:腰椎捻挫で入院1か月、通院6か月の場合の傷害慰謝料・・・赤囲みの右の枠
裁判基準・・・113万円
任意保険基準・・・50万円~70万円
自賠責基準・・・1日4300円×日数 (ただし、上限あり)
  ※入院と通院がある場合、それぞれの期間が交わる場所の数字が裁判基準の金額。

その他、裁判を起こすことで、「弁護士費用」の一部(請求金額の1割)や遅延損害金(年3%)を加算して解決ができます。賠償金額が高額である場合や事故から年数が経っている場合には高額となります。

3 裁判の具体的な進め方

①裁判所へ訴状を提出

交通事故の裁判を起こす場合、まずは「訴状」作成して裁判所へ提出します。

訴状とは、裁判所に一番最初に出す書面で原告の言い分を記載する大切なものです。交通事故の訴状は、裁判所が形式を指定しているため、その書式を利用する必要があります。訴状に不備があると裁判所から訂正が求められたり、裁判を始めてもらえないことがあります。訴状に書かれた内容は簡単に変更、撤回することができませんし、相手方は当然、反論をしてきますので、よく考えて記載する必要があります。

(訴状例)

交通事故の訴状 東京地方裁判所

交通事故 訴状別紙 東京地裁

東京地裁 訴状別紙 損害額一覧

引用(記入例・裁判所)

なお、訴状を提出する裁判所はどこでもよいわけではありません。受付権限(管轄権)のある地方裁判所または簡易裁判所に提出しましょう。交通事故の場合の管轄権のある裁判所は、被害者の方の住所地の裁判所が基本です。

(訴状を地方裁判所にだすか簡易裁判所にだすかの判断)

訴額

提出先

140万円以下

簡易裁判所

140万円超

地方裁判所

訴状を出す際には、訴状に加えて証拠書類・添付書類、手数料(印紙)も忘れずに準備します。これらの書類の多くは、交渉段階で取得済みのものだと思いますが、不足があれば速やかに取得しましょう。

主な証拠書類・添付書類

・交通事故証明書
・実況見分調書
・病院の診断書
・診療報酬明細書、領収書
・被害者の収入の証明書
・後遺障害等級に関する認定書類
・後遺障害診断書
・休業損害証明書
・ドライブレコーダーの映像記録
・カルテ
・診断画像 など

裁判所の申し立てで不明点がある場合には、裁判所のホームページや裁判所の窓口でも確認することができます。