熟年離婚の退職金・年金・財産分与はどうなる?生活費や自宅の処分を弁護士が解説

監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
![]()
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
使途不明金や不動産の評価等の専門的な遺産調査や、交渉・裁判に力を入れて取り組んでいます。
相続の法律・裁判情報について、最高品質の情報発信を行っています。
ご相談をご希望の方は無料相談をお気軽にご利用ください。

―退職金と年金で「老後が逆転」する人の共通点―
熟年離婚では、「知らなかった」だけで数百万円単位の差が生じることがあります。
「長年連れ添ったが、これ以上は無理」――。
子どもの独立などを機に、熟年離婚を選択する夫婦が増えています。厚生労働省の2024年(令和6年)人口動態統計によると、同居期間20年以上の離婚は約4万件と全体の約2割を占め、上昇傾向にあります。
しかし、準備不足のまま進めると生活基盤を損なう恐れがあります。
感情的な対立を避け、法的・経済的な見通しを立てて進めることが、安定した再出発への鍵となります。
1. 財産分与の落とし穴:退職金で老後資金に決定的な差がつく
熟年離婚において、最も金額が大きく、かつ見落としがちなのが「退職金」です。
退職金は金額が大きいため、分与の有無や計算方法によっては、老後資金に決定的な差が生じます。
例えば、勤続35年で定年退職金が2,100万円、婚姻期間が30年の場合、分与対象額は900万円にものぼります。この数字を知らずに合意してしまうことが、最大の『落とし穴』です。
-
すでに支払われた退職金: 現金や預金として残っていれば分与対象。
-
将来支払われる退職金: 数年後に定年を控えているなど、支払われる蓋然性が高い場合は、婚姻期間に応じた按分計算で分与の対象となります。
【注意ポイント】 別居後に相手が取得した財産は原則として対象外です。財産分与の基準日は「別居時」となることが多いため、別居前に財産状況を把握しておくことが不可欠です。
2. 熟年離婚で財産分与の対象になる財産・ならない財産
熟年離婚では、退職金や年金だけでなく、預貯金や自宅など多くの財産が財産分与の対象となります。もっとも、「すべての財産を半分に分ける」というわけではありません。どの財産が対象になるのかを正しく理解することが大切です。
財産分与は原則として2分の1ずつ
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を公平に分ける制度です(民法768条)。夫婦のどちらが主に収入を得ていたかにかかわらず、原則として2分の1ずつ分けることになります。
例えば、夫が会社員として働き、妻が専業主婦として家庭を支えていた場合でも、家事や育児による貢献が評価されるため、財産分与の割合は原則として変わりません。
ただし、夫婦で合意した場合や、特別な事情がある場合には、必ずしも2分の1にならないこともあります。
財産分与の対象になる財産
一般的に、婚姻期間中に夫婦で築いた財産は共有財産として財産分与の対象になります。
例えば、次のようなものです。
- 預貯金
- 自宅やマンションなどの不動産
- 自動車
- 株式・投資信託などの金融資産
- 生命保険の解約返戻金
- 退職金(一定の場合)
- 婚姻期間中に積み立てられた年金に関する権利
名義が夫だけであっても、婚姻中に形成された財産であれば、財産分与の対象となることが少なくありません。
財産分与の対象にならない「特有財産」
一方で、すべての財産が財産分与の対象となるわけではありません。
例えば、次のような財産は「特有財産」とされ、原則として財産分与の対象外です。
- 結婚前から所有していた預貯金
- 結婚前に購入した不動産
- 親や親族から相続した財産
- 贈与によって取得した財産
- 個人的な趣味や仕事のために取得した財産で、夫婦の協力とは無関係なもの
例えば、親から相続した実家や土地は、婚姻中に相続した場合でも原則として共有財産にはなりません。
特有財産でも注意が必要なケース
もっとも、特有財産であっても、その管理方法によっては争いになることがあります。
例えば、結婚前から持っていた預金を婚姻後に生活費として使用したり、夫婦共通の口座へ移したりした場合には、本来の特有財産との区別が難しくなることがあります。
また、婚前の預金を住宅購入資金に充て、その住宅を夫婦共有の生活基盤として利用していた場合には、どこまでが特有財産なのかが争点となることもあります。
このようなケースでは、通帳や取引履歴などから資金の流れを確認し、客観的な資料によって立証することが重要になります。
財産分与は「別居時」が基準となることが多い
財産分与では、「いつ時点の財産を分けるのか」も重要なポイントです。
一般的には、夫婦の共同生活が終了したと考えられる「別居時」の財産を基準に判断されることが多くなっています。
例えば、別居時点で預貯金が800万円あり、その後、離婚成立までの間に一方が300万円を使ったとしても、原則として別居時の財産状況を基準に財産分与が検討されます。
そのため、別居後に一方が財産を処分した場合でも、そのことだけで相手方の取り分が当然に減るわけではありません。
もっとも、別居せずに離婚協議を進めている場合などは、財産分与の基準時が問題となることもあるため、個別の事情に応じた判断が必要です。
離婚前に財産を整理しておくことが重要
熟年離婚では、婚姻期間が20年、30年と長くなるため、財産の種類や金額も多くなりがちです。
離婚を考え始めた段階で、
- 預貯金
- 不動産
- 保険
- 株式・投資信託
- 退職金
- 年金に関する資料
などを整理しておくことで、後の話し合いや調停が円滑に進みやすくなります。
財産の内容や評価方法によっては結論が大きく変わることもあるため、不安がある場合は早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
3. 年金分割の落とし穴:想定受給額と大きく異なるリスク
年金分割制度は、熟年離婚後の生活を支える柱ですが、多くの誤解があります。
-
「半分もらえる制度」ではない: 夫(または妻)が受け取る年金額そのものが半分になるわけではありません。
-
分けるのは「記録」: 婚姻期間中の「厚生年金の納付記録(標準報酬)」を分ける制度です。
-
基礎年金は対象外: 自営業者の国民年金や、老齢基礎年金部分は分割できません。
想定していた受給額と大きく異なるケースも少なくありません。
厚生年金の記録を分割しても、実際に増える月額は3万円〜5万円程度に留まるケースも少なくありません。基礎年金を含めた『総額の半分』を期待していると、離婚後の生活設計が破綻してしまいます。
事前に「年金分割のための情報通知書」を取得し、正確な数値を把握しておく必要があります。
4. 住居の問題:【図解】売却か、居住継続か
自宅をどう扱うかは、離婚後のキャッシュフローを左右します。
【図解】熟年離婚で「住まい」で失敗する流れ
(支払者と居住者が不一致)
(競売・退去のリスク)
【ケーススタディ】財産分与と年金分割の「実例シミュレーション」
以下の条件で、離婚後の収支がどう変わるかを比較してみましょう。
世帯モデル:
夫:会社員(年収700万円、勤続35年)
妻:専業主婦(婚姻期間30年)
共有財産:預貯金2,000万円、自宅(完済・価値2,500万円)
退職金見込額:2,100万円
【解決策 A:自宅を売却する場合】
-
自宅売却: 2,500万円を折半(各1,250万円)
-
預貯金: 2,000万円を折半(各1,000万円)
-
退職金: 婚姻期間按分(30/35)の半分、900万円を夫から妻へ支払い。
結果: 妻は一括で3,150万円のキャッシュを確保。これを住居費と生活費に充てる。
【解決策 B:妻が自宅に住み続ける場合】
-
自宅: 2,500万円分を妻が取得。
-
代償金: 夫への分与分(1,250万円)を預貯金や退職金持分と相殺。
結果: 妻は住まいを確保できるが、手元の現金は数百万円単位まで減少する。
「住まい」を取るか「現金」を取るか。 この選択が10年後のQOL(生活の質)に直結します。
5. 財産分与の「隠し財産」を逃さない。弁護士による調査の実態
熟年離婚では、一方が家計を完全に握っているケースが多く、もう一方が財産状況を把握していないことが「不利な条件」を招きます。
-
生命保険の解約返戻金: 盲点になりやすい資産です。長年積み立てた終身保険や養老保険には、数百万円の価値がついていることが少なくありません。
-
証券口座と仮想通貨: 近年はネット証券や暗号資産の隠匿も増えています。
-
弁護士会照会(23条照会): 弁護士が介入することで、銀行や証券会社に対して強制力を持った情報開示を求めることができます。
6. シニア世代特有の悩み「ペット」と「お墓」
感情的な対立が深まるのが、ペットの親権(所有権)や先祖代々のお墓の管理です。
-
ペット: 法的には「物」として扱われますが、飼育費用や面会交流について合意書に盛り込むケースが増えています。
【関連記事】ペットに遺産を残す3つの方法|遺言・信託で安心の相続準備
-
お墓(祭祀承継): 離婚後、実家の墓に戻るのか、新たに購入するのか。これらも「離婚後のコスト」として計算に入れておくべきです。
7. 話し合いでまとまらない場合はどうなる?
熟年離婚では、退職金や年金、自宅などの財産分与について夫婦間で意見がまとまらないことも少なくありません。
その場合は、まず夫婦同士で話し合い(協議離婚)を行い、それでも合意できない場合は家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。
日本では、原則として調停を経ずにいきなり離婚裁判を起こすことはできません。そのため、多くのケースでは、まず調停で解決を目指すことになります。
調停では、裁判官と調停委員が双方の話を聞きながら合意点を探りますが、最終的に合意するかどうかは当事者自身が決めます。
財産分与では、
-
預貯金
-
不動産
-
退職金
-
保険
-
株式
などの資料を整理しておくことが重要です。
8. 調停でもまとまらない場合
調停でも合意できない場合には、調停は不成立となり、離婚訴訟へ進むことになります。
裁判では、離婚できるかどうかだけでなく、財産分与や慰謝料などについても裁判所が証拠に基づいて判断します。
そのため、自分に有利な事情を主張するだけでは足りず、通帳、不動産資料、退職金の資料など、客観的な証拠を準備しておくことが重要です。
9. 熟年離婚に関するFAQ(よくある質問)
Q1. 相手が隠している預貯金があるようです。調査は可能ですか?
A. 弁護士による「照会手続き」が可能です。
銀行名や支店名がある程度特定できていれば、弁護士会照会などを通じて残高を確認できる場合があります。不審な動きがある場合は、別居前に通帳のコピーなどを確保しておくのが理想的です。
Q2. 専業主婦ですが、離婚後すぐに生活が困窮しないか不安です。
A. 「婚姻費用」の請求と、将来の収支試算を行いましょう。
離婚成立までの別居期間中は、収入の多い側に対して「婚姻費用(生活費)」を請求できます。また、離婚後の年金や資産の取り崩しを含めた長期的なシミュレーションが不可欠です。
被扶養者から外れると、年間で数十万円単位の保険料負担が発生することもあります。分与されたキャッシュからこれらを差し引いた『実質的な手残り』を計算しておく必要があります。
Q3. 性格の不一致でも、公正証書は作ったほうがいいですか?
A. 必ず作成すべきです。
財産分与の支払いが分割になる場合や、年金分割の手続きを確実に行うためにも、執行力のある「公正証書」を作成しておくことで、将来のトラブルを未然に防げます。
10. 安定した再出発のために
熟年離婚は、感情の問題であると同時に、「老後の生活設計そのもの」の問題です。「損をしないこと」は、決して欲張りなことではありません。正当な権利を確保することは、残りの人生を自分らしく、誇りを持って生きていくための最低条件なのです。
準備の有無によって、
-
安心して再出発できる人
-
生活に不安を抱え続ける人 に分かれます。
「まだ大丈夫」と思っている段階での整理が、最も有効です。 不安がある場合は、早い段階で専門家にご相談ください。
![]()
使途不明金や不動産の評価等の専門的な遺産調査や、交渉・裁判に力を入れて取り組んでいます。
相続の法律・裁判情報について、最高品質の情報発信を行っています。
ご相談をご希望の方は無料相談をお気軽にご利用ください。

ご予約