交通事故の高次脳機能障害の逸失利益とは?|計算方法も解説
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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この記事でわかること
- 交通事故の高次脳機能障害とは?
- 高次脳機能障害の後遺障害
- 高次脳機能障害の逸失利益の内容
- 高次脳機能障害の逸失利益の計算方法
- 高次脳機能障害については弁護士へ相談しましょう
交通事故によって高次脳機能障害が生じた場合、後遺障害慰謝料とは別に逸失利益を受け取れる可能性があります。
高次脳機能障害を負うと、事故に遭う前に比べて満足に動いたり、働いたりできなくなるおそれがありますので、もしもの場合に備え、逸失利益についての基礎知識を押さえておきましょう。
今回は高次脳機能障害の逸失利益に関する基礎知識と計算方法、その他の賠償金、高次脳機能障害の場合の損害賠償を弁護士に依頼するメリットについて解説します。
1 高次脳機能障害の逸失利益とは
高次脳機能障害とは、交通事故などによって受けた脳外傷により、脳が部分的に損傷したことで起こる障害のことです。高次脳機能障害が生じると、主に以下のような症状が現れます。
- 注意障害
- 記憶障害
- 遂行機能の障害
- 社会的行動障害
1は注意力や集中力の低下が起こり、作業中にミスを連発したり、ひとつのことに集中するのが難しくなったりします。
2は新しいことを覚えるのが苦手になり、約束を忘れる、何度も同じ話を繰り返すなどの行動を起こすようになります。
3は日常生活や仕事の内容を整理・計画・処理する作業が困難になります。
4は感情や行動のコントロールが取りにくくなり、急に笑い出したり、気分が落ち込んだりします。
高次脳機能障害は外見からはわかりにくく、かつ本人や周囲の人も症状に気づきにくいところが特徴です。
ただ、1~4の症状が頻発すると、日常生活はもちろん、仕事上でもさまざまな支障を来し、労働が困難になる場合があります。
実際、高次脳機能障害によって日常生活および業務の遂行が困難になり、休職や退職を余儀なくされたり、支援サービスを受けざるを得なくなったりするケースは少なくありません。
このように、事故がなければ将来得られたであろう収入・利益のことを逸失利益と言います。
高次脳機能障害に陥った場合、相手方(交通事故の加害者)に逸失利益の支払を請求することができます。
逸失利益は高額になるケースも多く、被害者にとって手厚い補償となりますので、逸失利益が生じる場合はしっかり請求することが大切です。
2 高次脳機能障害の逸失利益の計算方法
高次脳機能障害の逸失利益を請求する際は、まず逸失利益そのものの金額を計算します。
2-1 逸失利益の計算方法
逸失利益の基本的な計算式は以下の通りです。
逸失利益=一年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
この計算式を用いるには、それぞれの項目の求め方を知っておく必要があります。
以下では逸失利益の計算に必要な項目について説明します。
2-2 基礎収入
基礎収入とは被害者が一年間に得る基本的な収入のことです。逸失利益は事故が起こらなかった場合に得られるはずだった利益ですので、収入額のベースは事故前のものとなります。
収入と言うと何らかの仕事に就いている方をイメージしがちですが、学生や無職の高齢者、主婦の方にも基礎収入は認められます。
働いていない=基礎収入がないと思い込んでいる方も多いのですが、職の有無は関係ありませんので、学生や高齢者、主婦の方でも事故で高次脳機能障害になった場合はしっかり逸失利益を請求しましょう。
ただ、基礎収入の考え方は事故前の職業によって異なるので注意が必要です。
[会社員]
会社員など給与所得者の方は、給与明細や源泉徴収票に記載されている給与がベースになります。ここで言う給与とは、基本給だけでなく諸手当や賞与も含まれます。
[主婦]
主婦の方の基礎収入は賃金センサスがベースになります。
賃金センサスとは、厚生労働省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」の結果をもとに、労働者の性別や年齢、学歴等に分けて平均年収をまとめた資料のことです。
主婦の方の場合、賃金センサスにおける女性労働者の全年齢平均賃金がベースになります。たとえば令和3年度であれば25万3,600円です。[注1]
なお、パートやアルバイトをしている主婦の方は、女性労働者の全年齢平均賃金と自身の収入を比較し、より金額の多い方が基準となります。
[注1]厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査 結果の概況 性別」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/dl/02.pdf
[高齢者]
高齢者の基礎収入は、事故前の職業に応じて決まります。現役で働いている場合は給与または事業収入がベースになりますし、専業主婦・主夫であれば賃金センサスが基準になります。
現時点で無職だった場合も、今後就労する意欲と蓋然性があれば、賃金センサスを基礎収入の基準にすることが可能です。
なお、就労の意欲がなく、かつ収入が年金のみの場合は、逸失利益を請求することはできません。年金は本人の体の状態にかかわらず、決まった額を受け取ることができるため、逸失利益はないものとみなされます。
[学生]
未就労の学生も、主婦の方と同じく、賃金センサスの男女別全年齢平均賃金額がベースになります。アルバイトをしている場合は、全年齢平均賃金額と比べてより高い額が基本となります。
2-3 労働能力の喪失
高次脳機能障害の逸失利益を求める際、労働能力の喪失も重要なポイントになります。
[等級別の労働能力の喪失率]
労働能力喪失率とは、障害によって労働する能力がどれだけ失われたかを数値にして表したものです。
労働能力喪失率は後遺障害等級によって以下のように区分されています。[注2]
後遺障害等級 |
労働能力喪失率 |
第1級 |
100% |
第2級 |
100% |
第3級 |
100% |
第4級 |
92% |
第5級 |
79% |
第6級 |
67% |
第7級 |
56% |
第8級 |
45% |
第9級 |
35% |
第10級 |
27% |
第11級 |
20% |
第12級 |
14% |
第13級 |
9% |
第14級 |
5% |
どの等級に該当するかは症状によって異なります。
[注2]国土交通省「労働能力喪失率表」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/sousitsu.pdf
[高次脳機能障害の労働能力喪失の内容]
高次脳機能障害が残った場合、以下4つの能力をもとに等級を認定します。
- 意思疎通能力
- 問題解決能力
- 作業負荷に対する持続力・持久力
- 社会行動能力
これら4つの能力について、以下7段階に区分し、判定結果を踏まえて障害等級を認定します。
- できない
- 困難が著しく大きい
- 困難はあるがかなりの援助があればできる
- 困難はあるが多少の援助があればできる
- 困難はあるが概ね自力でできる
- 多少の困難はあるが概ね自力でできる
- 障害なし
高次脳機能障害の場合、障害の程度に応じて第3・5・7・9・12・14級に認定します。[注3]
[注3]厚生労働省「神経系統の機能及び精神の障害に関する障害等級認定基準について」(p2)
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-4.pdf
[労働能力喪失率の立証のポイント]
高次脳機能障害は、外見からは症状の度合いを測れないため、どのくらい労働能力が失われたか立証するのは難しいと言われています。
そのため、高次脳機能障害の逸失利益を請求する際は、頭部外傷の診断書や脳の画像所見、脳の損傷や脳萎縮、脳室拡大を示す画像などを提出するのが有効とされています。
意識障害や精神障害を伴う場合は、医師に頭部外傷後の意識障害についての所見や、意見書などを作成してもらうとよいでしょう。
2-4 労働能力喪失期間
労働能力喪失期間とは、後遺障害によって労働能力が制限された期間のことです。
基本的には、症状が固定されてから67歳になるまでの年数が基準となります。
高次脳機能障害の逸失利益を計算する際は、この労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を求める必要があります。
ライプニッツ係数は国土交通省の「就労可能年数とライプニッツ係数表」で確認できます。[注4]
[注4]国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/syuro.pdf
3 高次脳機能障害のその他の賠償金
高次脳機能障害になった場合、逸失利益以外に以下のような賠償金を得られる可能性があります。
3-1 後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、交通事故で後遺症を負った場合に請求できる慰謝料のことです。自賠責保険や任意保険、裁判所ごとに設定された支払基準をもとに金額が決まります。
3-2 休業損害
休業損害とは、交通事故によるケガや傷害が原因で休職したことによって生じた減収のことです。職業や収入、休業期間、通院日数などをもとに算出されます。
3-3 将来介護費
将来介護費とは、交通事故による後遺障害が原因で将来にわたって介護が必要になった場合に請求できる費用です。
付添人の種類や生存可能期間などをもとに計算します。
4 高次脳機能障害の場合の弁護士へ依頼するメリット
高次脳機能障害の場合の請求を弁護士に依頼するメリットをご紹介します。
4-1 後遺障害を被害者請求での申立て
後遺障害等級認定の手続きを保険会社に任せると、後遺障害等級が認定されるのみで終わってしまいます。
弁護士に依頼して被害者請求での申し立てを行うと、等級に応じた自賠責限度額を先取りできたり、透明性の高い手続きで納得した結果を出しやすくなったりします。
4-2 裁判基準による交渉
交通事故の慰謝料には、自賠責基準、任意保険会社基準、裁判基準の3つの基準があります。
弁護士に依頼すると、慰謝料の相場が最も高い裁判所基準で交渉できるため、補償が手厚くなります。
【関連記事】もらい事故の慰謝料の特徴|慰謝料増額のための4つの方法を徹底解説
4-3 保険会社とのやり取りを全て任せられる
過失割合ゼロのもらい事故の場合、加入している保険会社は交渉に入ることができないため、被害者自身が加害者側の保険会社とやり取りしなければなりません。
弁護士に依頼すれば、相手方の保険会社とのやり取りを全て一任することができます。
【関連記事】交通事故で保険会社が嫌がること6選|保険会社と対等にやり取りを行うためのポイント
4-4 裁判も対応してもらえる
高次脳機能障害が認定された場合、賠償金額が大きくなるため、裁判に発展する場合があります。
弁護士に依頼していれば、裁判にも対応してもらえるので安心です。
5 まとめ
交通事故で高次脳機能障害を負った場合、会社員や自営業の方だけでなく、学生や高齢者、主婦の方も逸失利益を請求できます。
ただ、逸失利益の計算や立証は複雑ですので、弁護士に依頼してサポートを受けることをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、被害者請求での申立てや裁判基準での交渉など複数のメリットがあり、より納得のいく補償を受けることができるでしょう。
慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
交通事故の被害者救済のために、積極的に法律・裁判情報の発信を行っています。
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