相続における成年後見人の役割~財産管理から相続まで知っておくべきポイントを弁護士が解説

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相続における成年後見人の役割~財産管理から相続まで知っておくべきポイントを弁護士が解説

高齢者の約5人に1人が認知症を発症すると言われる現代において、遺産相続は多くの人にとって不安を抱えるテーマであると言えます。

そのような中、認知症などで自分の意志をしっかりと表現できない人々の財産や権利を守る、成年後見人の存在が注目されています。

本記事では、相続問題に詳しい弁護士が、成年後見人と相続における疑問や不明点が解消されるよう、成年後見人とは何か、その選任方法、さらには制度を利用する際の注意点について詳しく解説します。

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1 成年後見人とは?

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1-1 成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症やその他の理由で判断能力が低下した人の権利を守り、生活を支援するための法的な仕組みです。

この制度は、高齢者だけでなく、知的障害や精神障害を持つ人、または病気や事故によって脳に障害を負った人などが対象となっています。

成年後見制度の一つの大きな目的は「身上監護」です。

「身上監護」とは、判断能力が低下した人が財産の管理や契約行為などで不利益を被ることを防ぎ、安心して生活が送れるようにするためのものです。

例えば、認知症によって日常生活の判断が難しくなった高齢者が、不必要な契約をしてしまうといったケースを防ぐために、成年後見人が法的に選任され、詐欺被害に合わないようにして大切な財産を守ります。

成年後見人は、家庭裁判所によって選任されることになります。

選任された成年後見人には、ご本人の意思を尊重する義務があります。

つまり、成年後見人は単に法的な手続きを代行するだけでなく、ご本人の意志や考えを最大限に尊重しながら、その権利を守る役割を果たす必要があります。

成年後見制度は、多くの人々にとって非常に重要な制度です。特に、高齢化社会が進む日本においては、この制度の理解と活用が求められています。

1-2 成年後見制度の種類

成年後見制度には、「任意後見制度」と「法定後見制度」の2種類が存在します。

「任意後見制度」とは、自分がまだ判断能力が十分なうちに、後見人となってくれる人と任意後見契約を締結する制度です。

この制度を利用することで、将来的に認知症や精神障害などで判断能力が不十分になった場合でも、事前に選定した信頼できる人が支援をしてくれます。

「法定後見制度」とは、認知症や知的障害、精神障害、病気や事故で脳に障害を負ったなど、本人が一人で判断するのが難しくなった場合に、家庭裁判所によって成年後見人などが選任される制度です。

法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて「補助」「保佐」「後見」の3種類があります。

■補助

日常的に重要な判断が不十分で、手続きや契約を一人で決めることに心配がある人に適用されます。

■保佐

日常的に判断力が著しく不十分で、重要な手続きや契約を一人で決めることができないと判断された人に適用されます。

■後見

日常的に判断力を欠いており、多くの手続きや契約などを一人で決めることが困難な人が該当します。

すべて家庭裁判所が選任することになり、本人に対して必要な支援を行い、財産や権利を守るのです。

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1-3 成年後見人の役割

成年後見人の役割は非常に重要であり、主に「被後見人の財産の管理」と「身上監護」の2つに大別されます。それぞれの役割には、具体的な事務が含まれています。

「被後見人の財産の管理」には、以下のような事務が含まれます。

  • 預貯金の管理:被後見人名義の預金通帳・印鑑の保管・管理。
  • 証券類などの金融商品の管理:株式などの有価証券の管理。
  • 生活費の支払い:水道料金や電気料金などといった公共料金などの生活費の支払い。
  • 不動産の管理:本人がアパートなどを所有し賃料収入がある場合には賃料の受領も担当。

「身上監護」とは、被後見人の生活や療養、看護に関する事務を指します。具体的には、以下のような事務があります。

  • 病院に入院する際の契約や医療費の支払い:入院して治療が必要な場合、入院契約の締結、医療費の支払いを行う。
  • 介護保険サービス契約の締結など:介護保険の認定申請やケアプランの検討、介護サービス契約の締結など。
  • 高齢者施設への入所契約:老人ホームや介護施設などに入所する際の契約、費用の支払いなど。

成年後見人の役割は多岐にわたり、被後見人の生活を全面的にサポートします。財産管理から生活面まで、幅広い活動を行っていることが分かります。

1-4 成年後見人が必要なケース・不要なケース

相続手続きにおいて成年後見人が必要とされるケースはいくつかあります。

特に、相続人の中に認知症やその他の理由で判断能力を欠く方がいる場合、成年後見人の存在が不可欠です。相続人の法的な代理人として、相続に関する各種手続きを行うために必要になるからです。

遺産分割協議には法定相続人全員が参加しなければなりません

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遺産分割協議とは、相続人全員で亡くなった人の相続財産の分割方法について話し合い、決めることを指しています。

期限は特に設けられていませんが、相続人全員の同意が必要になります。

ただ、認知症などで判断能力を欠く方がいる場合、その人が遺産分割協議書に署名・押印しても、それは無効とされます。

そのため、このような状況で成年後見人が重要な役割を果たすことになります。本人に代わって遺産分割協議に参加し、適切な手続きを行うことができます。また、協議が成立しない場合には、家庭裁判所での遺産分割調停にも参加してもらえます。

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ただ、遺言書が存在する場合には、その遺言書に従って相続が進められるため、成年後見人は基本的に不要です。

しかし、遺言書がない場合、特に相続後の不動産の処分などが難しくなる可能性があります。そのようなことから、相続においては成年後見人が必要とされるケースが多いです。

2 成年後見人の選任方法について

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2-1 家庭裁判所が選任する

成年後見人の選任は、相続手続きにおいて非常に重要であり、特に、相続人の中に認知症やその他の理由で判断能力を欠く方がいる場合、成年後見人の選任が必要となるケースが多いです。

成年後見人が必要となる場合、家庭裁判所に申立てを行うことによって選任されることになります。

家庭裁判所への申立ては、本人自身や配偶者、4親等内の親族などが行うことができます。申立てを行う際には、後見人として適切と考えられる候補者を立てます。

家庭裁判所は、本人がどの程度の保護や支援を必要としているか判断し、その状況に最も適した人物を選任することになります。

後見人候補者からだけでなく、場合によっては他の親族や法律・福祉の専門家を選任することもあります。

2-2 成年後見人になる条件

成年後見人になるためには、特別な資格は必要ありません。

重要なのは、本人(被後見人)に必要な保護や支援の内容に応じて、利益になるような人物であることです。

この点は、家庭裁判所が選任する際の重要な判断基準となります。

一般的には、本人の身の回りの世話をしていた親族が選任されることが多いです。

しかし、近年では、弁護士など法律の専門家や社会福祉士など福祉の専門家、市民後見人、さらには福祉関係のNPO法人や社会福祉法人なども選任されるケースが増えています。

2-3 成年後見人に選任されないケース

本人との利害関係がある人や、社会的信頼度が低い人は、原則として選任されることはありません。

これは、成年後見人が本人の財産を管理する権限を持つため、本人の財産を使いこんでしまうなどの不正行為のリスクを防ぐ必要があるからです。

民法には、後見人になれない条件、いわゆる「後見人の欠格事由」が明確に定められています。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人
  • 破産者
  • 被後見人に対して訴訟をし、またはした者並びにその配偶者及び直系血族
  • 行方の知れない者

これらの条件に該当する人物は、成年後見人に選任されることはありません。

2-4 成年後見人に第三者が選任されるケース

成年後見人の選任においては、親族以外の第三者、特に専門家が選ばれるケースも少なくありません。

親族間で成年後見人に誰を選ぶかで意見が分かれる場合、第三者である弁護士や司法書士が選ばれることがあります。

また、被後見人が賃貸マンションを所有するなど、一定の事業収入がある場合、その管理には専門的な知識が必要とされ、専門家が選ばれることが多いです。

さらに、被後見人の資産が多額である場合、その管理と保全には専門的なスキルが求められ、専門家が選ばれるケースがあります。

被後見人と後見人候補、またはその親族との間に何らかの利害の対立がある場合にも、中立的な立場を持つ第三者が選ばれることになります。

後見人の候補者が高齢であり、その後の継続的なサポートが難しい場合も、専門家が選ばれることが多いです。

2-5 特別代理人の選任と利益相反について

遺産分割協議において、成年後見人が相続人である場合、利益相反が発生する可能性があります。このような場合には、「特別代理人」が選任されることがあります。

利益相反』とは、利害関係が成立する状況を指します。例えば、成年後見人が被後見人と同じ相続人である場合などが該当します。

そのような状況になると、成年後見人が自身に有利になるように財産を分配できることになってしまいます。

このような状況では、専門家が「特別代理人」として選任されることが一般的です。

特別代理人の選任が必要とされるケースは、未成年者と親権者や、認知症などによって判断能力が不十分な相続人と同じ相続人のように、利害関係となる場合が挙げられます。

3 成年後見人を選任するための手続き

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3-1 申立書類の作成(必要書類の準備・診断書の取得など)

成年後見人を選任するための手続きを始めるには、まず必要な書類を整える必要があります。

①診断書の取得

診断書は、本人がどの程度の支援を必要としているかを判断するために必要です。この診断書に基づいて、後見・保佐・補助のいずれが適切か、判断されることになります。

かかりつけ医や近隣のクリニックや病院に診断書の作成を依頼します。この際、具体的な症状や状態を正確に医師に伝えることが重要です。

②申立書類の準備

申立てを行う家庭裁判所で必要な書類一式を取得します。これは家庭裁判所のウェブサイトからダウンロードすることも、窓口で直接受け取ることも、または郵送で受け取ることも可能です。

申立書類一式には以下のものが含まれます。

  • 申立書
  • 申立事情説明書
  • 親族関係図
  • 財産目録
  • 収支状況報告書
  • 後見人候補者事情説明書
  • 親族の同意書

3-2 申立て(本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ)

申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。申立書類一式と必要書類が整ったら、これを家庭裁判所に提出します。

申立ては、本人自身や配偶者、4親等内の親族、または市区町村長が行うことができます。

4親等内の親族には、親や祖父母、子、孫、ひ孫、兄弟姉妹などが含まれます。

申立てが行われた後、家庭裁判所では本人をはじめ、申立人や成年後見人候補者から意思確認や詳しい事情を聞くための面接が実施されることになります。

3-3 家庭裁判所の審理開始

申立てが終了した後、裁判官が申立書類を詳細に審査し、本人に対してどのような支援が必要なのか、そして成年後見人は誰が最も適任であるかを判断します。

この裁判官による一連の審査のことを「審理」と呼びます。

審理は、申立てから審判までに1ヶ月から3ヶ月程度かかることが一般的で、成年後見の開始まではおおよそ4カ月以内となっています。

3-4 審判、成年後見人の選任

審理が終了した後、裁判官は調査結果や提出資料に基づいて最終的な判断をし、成年後見人が誰になるのかが決定されることになります。

この判断のことを「審判」と呼びます。

審判には、後見の開始の審判と、成年後見人の選任が含まれます。最も適任とされる人が成年後見人として選任されます。

また、個別の事案や裁判所によっては、弁護士など法律の専門家から成年後見監督人が選ばれることもあります。

これは、特に複雑なケースや高額な財産が関わる場合など、家庭裁判所が必要と認める事由がある場合に見られます。

審判の内容は「審判書」として成年後見人に送付されます。審判の内容に不服がある場合、審判書が成年後見人に届いてから2週間以内に、申立人や利害関係人は不服の申立てをすることができます。

不服の申立てがなければ、後見が開始されることになります。

3-5 後見の登記(成年後見の開始)

審判が確定した後、その内容を登記する必要があります。この登記のことを「後見登記」と呼びます。法定後見制度の場合、後見登記は家庭裁判所が行います。

後見登記制度は、成年後見人の権限や任意後見契約の内容をコンピュータ・システムに登録する制度です。登記官が登記事項を証明した「登記事項証明書」が発行され、これによって登記情報が公開されることになります。

後見登記制度を活用することで、後見人は本人に代わり、法律行為や契約行為などを行うことが可能になります。

成年後見人が選任されたら、1か月以内に、成年被後見人の財産を調査し、財産目録を作成しなければなりません。

4 成年後見制度を利用する際の注意点

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4-1 成年後見人の立場が悪用されることも

成年後見制度は、高齢者や障害者などの判断能力が不十分な人々の生活を支える重要な制度ですが、成年後見人がその立場を悪用するケースがあります。

成年後見人が被後見人の財産を横領した場合、業務上横領罪となり、逮捕される可能性があります。これは、成年後見人が「業務上」財産を管理しているためです。

業務上横領罪の法定刑は10年以下の懲役とされており、一般的な横領罪(5年以下の懲役)よりも重い罪になります。

そのため、資産が一定基準以上ある場合、弁護士や司法書士などの法律の専門家が成年後見人として選任されるケースが増えています。

また、使い込みや不正行為が発覚した場合、家庭裁判所に成年後見人解任の申立てが可能です。

さらに、トラブルを防ぐためには、後見制度支援信託を利用することが有効です。これは、弁護士など法律の専門家が専門職後見人となり、信託銀行等と契約を結ぶ手続きです。

日常生活に必要な金額以外は信託銀行に預けておくことになりますから安心です。

4-2 成年後見人の報酬について

弁護士などの法律の専門家が成年後見人に選任された場合、その報酬は年間20万円〜70万円程度が必要となります。

また、訴訟や不動産売却などの手続きが発生した場合、その都度追加の報酬が必要になります。

このような報酬の問題から、親族を後見人候補として申立てるケースが多いです。しかし、親族が選ばれると、利害の対立や横領のリスクも考慮する必要があります。

さらには、最終的に後見人を選任するのは家庭裁判所であり、資産が一定基準以上ある場合、法律の専門家が選任される可能性が高くなります。

見知らぬ法律家が選任されて困惑することを避けるためにも、事前に弁護士などの専門家に相談することがおすすめです。

4-3 成年後見人の解任について

成年後見人が一度選任されると、その後の解任は容易ではありません

横領が発覚した場合や、事故・病気で動けなくなった場合など、特別な事情がない限り解任することはできません。

親族の希望や本人の意向だけで解任することは法的に認められていないのです。

成年後見人が解任された場合、その後必ず別の人が成年後見人に選任されることになります。

成年後見制度が本人の生活や財産を守るために存在する制度であるため、後見人がいない状態を作らないようにするためです。

そのため、相続時に成年後見人が必要となった場合には、成年後見人を誰にするか、その選任はとても重要なのです。

5 まとめ

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本記事では、相続における成年後見人の役割について焦点を当て、財産管理から相続まで知っておくべきポイントを詳しく解説しました。

成年後見制度は、高齢者や障害者など、判断能力が不十分な人々の生活や財産を守るための重要な制度です。

しかし、その活用には多くの手続きと注意点が伴います。特に、成年後見人の選任には最大限の注意が必要です。

このように成年後見制度は多くの側面を有しているため、相続の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

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