主婦(主夫)でも休業損害を受け取れます|損をしない3つのポイントを弁護士が徹底解説
監修者ベストロイヤーズ法律事務所
弁護士 大隅愛友
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弁護士 大隅愛友
慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
交通事故の被害者救済のために、積極的に法律・裁判情報の発信を行っています。
全国からご相談を頂いております。ご希望の方はお電話またはwebでの無料相談をお気軽にご利用ください。
この記事でわかること
- 主婦(主夫)も休業損害を請求できます
- 主婦(主夫)の休業損害の計算方法
- 主婦(主夫)の休業損害は弁護士へ依頼しましょう
交通事故に巻き込まれてケガをした場合、休業損害の請求が可能です。
主婦(主夫)も対象であると聞いたけれど、本当に休業損害が受け取られるのか、いくら請求できるのか疑問に思う人も多いのではないでしょうか。
専業主婦が交通事故でケガをした場合も基本的に休業損害が適用されます。ただし、休業損害の計算方法などは、会社員のそれとは異なりますので注意が必要です。
本記事では、主婦の休業損害について、具体的な計算方法や認められにくいケースなどについて分かりやすく解説します。
1 主婦(主夫)の方でも交通事故の休業損害を受け取れます
交通事故で重い怪我を負ってしまった場合、主婦・主夫のように基本的に報酬が発生しない人でも、休業損害を受け取ることが可能です。
その理由を説明する前に、休業損害について見てみましょう。
1-1 休業損害とは
ケガをしなければ本来得たであろう収入が、休業損害です。
例えば、サラリーマンであれば給料ですし、自営業者であれば、営業活動の結果発生した利益がそれにあたるでしょう。
家事や育児など主婦の労働に対して報酬は発生しませんが、主婦業も労働とみなされています。家事代行サービスやベビーシッターの利用にはコストが発生することを考えると納得できると思います。
休業損害の対象となるのは、一般的に以下のものです。
・欠勤
・早退
・遅刻
・有給休暇
・定休日(除く場合もあり)
休業損害は、被害者の職業や休業期間、入院(または通院)した日数などによって金額が異なります。会社員やパートが休業損害を申請する際は、「休業損害証明書」が必要です(専業主婦の場合は不要)。
休業損害証明書には、
・治療期間
・休業した期間の給与
・欠勤や早退または遅刻した日数
などを記入します。
【関連記事】交通事故の休業損害証明書の記載方法|書いてもらえない場合の対応方法まで弁護士が解説
1-2 休業補償との違い
休業損害に似ている言葉に「休業補償」というものがあります。
休業補償は労働災害に対する補償のことで、病気やケガなどの理由で働けなくなった従業員に対して労災保険から支払われます(労働基準法76条)。休業損害も休業補償も、働けなくなった分の収入を補うことを目的としていますが、前者は交通事故によって被害に遭った人が対象で、後者は、労働者が対象という点において異なります。
1-3 専業主婦(主夫)
家事労働は、法律上金銭的な価値があるとみなされています。
そのため、専業主婦(主夫も含む)は、同居している家族のために料理を作ったり身の回りの世話をしたりする「家事従事者」という位置づけとなり、休業損害が適用されます。これが、主婦も休業損害を請求できる理由です。
1-4 兼業主婦(主夫)
主婦業と仕事を掛け持ちしているのが、兼業主婦です。兼業主婦の場合は、家事従事者または給与所得者として休業損害を請求できます。
2 休業損害の基準・計算式
休業損害は、以下のいずれかの基準を使って計算します。
・自賠責保険の基準
・任意保険の基準
・裁判基準(弁護士基準)
各基準によって、算出される休業損害の金額は異なります。
2-1 自賠責保険の基準
自賠責保険会社に休業損害を請求する際に、用いられる基準です。
自賠責保険は、「1日あたりの基礎収入」×「休業日数」で算出します。
自賠責保険の補償金額は120万円までと上限がありますが、これは入院費や治療費など他の賠償金を含めた総額であるという点に注意しましょう。
2-2 任意保険の基準
任意保険の基準は、任意保険会社が被害者に提示する休業損害を計算する際に使う基準です。
任意保険の基準は各任意保険会社によって異なるため、目安を把握しにくいといわれています。ただし、一般的には自賠責保険の基準よりも若干高く、裁判基準よりも低い傾向にあります。
任意保険の基準では、自賠責保険のように上限は設定されていません。ただし、主婦に対する休業損害は、低めに設定されがちです。
2-3 裁判基準(弁護士基準)
裁判基準は、弁護士が休業損害を計算する際に利用する基準です。
裁判基準では、平均賃金(賃金センサス)を用いて休業損害を算出します。f平均賃金が変動すると休業損害も異なりますが、一般的に他の2つの基準よりも高額になる可能性が高いといわれています。
3 主婦(主夫)の基礎収入
基礎収入とは簡単にいうと、事故前に得ていた収入のことです。
会社員の場合は、「事故が発生する直近3カ月分の給料÷稼働日数」ですが、主婦の場合は、以下のように算出されます。
3-1 専業主婦
専業主婦の基礎収入は、用いる基準によって金額が異なります。
・自賠責保険基準:1日あたり6,100円
・裁判基準:1日あたり10,804円(令和4年度の賃金センサス)
例えば、3カ月(90日)の治療期間中に40日通院した場合の休業損害は、
・自賠責保険基準:6,100円×40日=244,000円
・裁判基準:10,840円×40日=433,600円
です。
3-2 兼業主婦
兼業主婦は専業主婦よりも家事労働に従事する時間が短く、かつ家事労働の密度には個人差があります。
そのため、仕事と家事の基礎収入を合算せず、どちらか一方の基礎収入を選択します。なお、各基礎収入の算出方法は、専業主婦の場合と同じです。
4 主婦(主夫)の休業日数の考え方
休業日数とは、交通事故によるケガの治療で労働を休んだ日のことをいいます。
主婦の場合、通院や入院などで家事ができない期間がそれにあたります。
ただし、通院した日を休業日とするかどうかには、個人の判断に任される部分が多く複雑です。
例えば交通事故でケガをして入院した場合は、100%家事ができないことから、休業日数にカウントされます。問題は、通院日をどう扱うかです。通院した日は家事が全くできない状態であれば、休業日と考えられますが、ケガの程度によっては軽い家事ならできるなど、一律に捉えることが非常に難しいのです。
4-1 休業日数の計算式は通院日ではなく期間で考えます
休業日数を通院日で数えることが難しい主婦の休業日数は、期間で考えるのが無難です。
休業日数を期間で考えることによって、
①休業率を用いて段階的に計算する
②治療開始日から症状固定日までを「休業期間」として計算する
のいずれかの方法を選択できるでしょう。
①休業率を用いて段階的に計算する
治療期間をケガの程度によって2~4等分し、基礎収入に家事が出来ない割合(休業率)をかけて休業損害を計算する方法(「逓減(ていげん)方式」)です。休業率は、ケガの程度や回復具合によって異なります。
【関連記事】入通院日数の数え方と計算方法を弁護士が解説!
例:治療期間120日の場合(基礎収入10,000円)
・10,000円×100%×30日=300,000円
・10,000円×75%×30日=225,000円
・10,000円×50%×30日=150,000円
・10,000円×25%×30日=75,000円
合計 750,000円
②治療開始日から症状固定日までを「休業期間」として計算する
主婦は、「治療開始日から症状固定日までの期間は100%休業が必要だ」と主張することも可能です。ただし、それには「診療報酬明細書」や「後遺障害診断書」を医師から作成してもらい、治療日と症状固定日を証明する必要があります。
【関連記事】後遺障害診断書のもらい方~手続きや取得のポイント
4-2 むち打ちの場合の休業日数
むちうちによって家事ができなくなった場合、主婦は休業損害を加害者に対して請求できます。その際気になるのは、休業日数についてでしょう。
むちうちの場合、治療期間中全く家事ができないということは考えにくく、また通院した日でも回復の程度によっては一部家事ができる可能性もあります。そのため、むちうちの休業日数は、休業率を用いて段階的に計算する方法が望ましいでしょう。適切に計算するためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
【関連記事】 追突事故でむちうちになったらどうすればいい?弁護士が教える対処法と損害賠償のポイント
4-3 治療中の注意点
ケガの治療期間中は、ケガの治療に専念しましょう。その際注意するのは、以下の2点です。
・治療の打切りに対して適切に対応する
・自己判断で治療をやめない
①治療の打切りに対して適切に対応する
ケガの治療が長引いた場合、治療費を支払っている任意保険会社から、治療費支払いの打切りを通達されることがあります。
「治療は終わっていないのになぜ」と、ビックリしてしまうかもしれませんが、ここは適切に対処しましょう。
任意保険会社が打切りを打診するのは、自社の都合です。引き続き治療しなくてはならない場合は、医師の判断を仰ぎ、治療延長の必要性を任意保険会社に伝えます(延長交渉)。任意保険会社が延長に同意した場合、治療費は引き続き支払われることになります。
②自己判断で治療をやめない
ケガの治療は必ず最後まで受けましょう。自己判断で治療をやめてしまうと、後遺障害認定に申請できないなど不利な状況を招くおそれがあります。また、治療をストップした時点で休業損害の支払もストップする可能性があります。
【関連記事】交通事故の「治療費の打ち切り」とは?不払いへの3つの対応方法を弁護士が解説
4-4 事故からしばらくたった時期の休業損害は認められにくい
休業損害で注意するのは、事故が発生してしばらく経過した場合の休業損害は認められにくいという点です。
それまで何事もなかったにもかかわらず、急に「治療が必要だ」と主張するため、本当に治療が必要なのかどうか疑われる可能性が高いというのが理由です。
交通事故直後は何もなかったのに、後から痛みが出てくることは珍しくありません。
その場合はできるだけ早く病院で診察を受けましょう。その際、診断書を作成してもらいます。
病院で診察を受けるのが遅くなればなるほど、休業損害が認められない可能性は高くなります。
【関連記事】(交通事故)痛くないのに通院・検査してよいの?不正請求を疑われない注意点
5 休業損害の請求の手順
休業損害を請求する手順は、以下のとおりです。
①病院で診察を受ける
②必要な書類を準備する
・専業主婦:診断書、住民票、非課税証明書、配偶者の所得証明書
・兼業主婦(外部労働の評価額を選択する場合):診断書、休業損害証明書、源泉徴収票
③任意保険会社に②など必要な書類を提出する
6 休業損害が支払われるタイミング
休業損害が支払われるタイミングは、必要な書類を任意保険会社に提出してから、1~2週間後です。
早めに受け取りたい場合は、示談交渉前に請求することを検討しましょう。ただし、書類の不備があると、休業損害が支払われるまでに時間がかかる点には注意が必要です。
7 主婦(主夫)の休業損害が認められにくいケース
主婦の休業損害が認められにくいケースとして、以下の3つが挙げられます。
・他に家事を主に行っている同居者がいるケース
・家事代行を依頼したケース
・一人暮らしをしているケース
7-1 他に家事を主に行っている同居者がいるケース
2世帯など家事を代わってもらえる同居者(例えば姑)がいる場合、休業損害が認められないことがあります。特に、家事労働をメインに行っているのが同居者だった場合は、認められないまたは減額される可能性が高くなります。
7-2 家事代行を依頼したケース
家政婦や家事代行サービスなど、外部に家事を依頼する場合も、休業損害の対象外とみなされる可能性が高いです。ただし、休業損害は請求できないものの、家事代行にかかった費用は保険会社に請求できます。
7-3 一人暮らしをしているケース
一人暮らしの場合は家事従事者に該当しないため、休業損害の請求は難しいといわれています。家事従事者はあくまでも、同居している家族の世話をする人という意味です。
シングルマザー(またはシングルファザー)は、子供の身の回りの世話を担うため、一人暮らしではなく家事従事者とみなされます。
8 主婦(主夫)の休業損害を弁護士へ依頼するメリット
主婦の休業損害の請求は、弁護士に依頼することをおすすめします。会社員と異なり、主婦の休業損害は、個人判断によることが多いからです。弁護士に任せるメリットについて、見てみましょう。
8-1 適切な基礎収入の選択
①適切な基礎収入の選択
弁護士は、賃金センサスを基準に基礎収入を算出します。
賃金センサスは毎年変わりますが、その年の平均収入を参考にすることから、他の計算方法よりも合理的です。つまり、弁護士に依頼するということは、より適切な基礎収入の選択が可能になるということです。
②できる限り長期の休業日数のため担当医からの診断書の取得
主婦の休業日数の数え方は複雑で、休業損害についての知識が乏しい場合は、適切に休業日数をカウントすることが難しいでしょう。専門知識を身につけかつ実績のある弁護士なら、治療に適した期間を算出し、担当医に分かりやすく伝えてくれます。その結果、長期の休業日数を取得する可能性が高まります。
8-2 保険会社との連絡・交渉窓口
休業損害を受け取るには、請求先の保険会社とやり取りをする必要があります。ケガの治療で滅入っている時のやり取りは、心身共に負担がかかります。特に、相手が威圧的な態度で接してくる場合は、さらなる負担が予想されます。
弁護士は、保険会社との連絡や交渉の窓口になってくれるうえ、交渉では休業損害について、こちらの主張を合理的に伝えてくれます。被害者は、面倒なことやつらいことを弁護士に任せることによって、ケガの治療に専念できます。
【関連記事】交通事故で保険会社が嫌がること6選|保険会社と対等にやり取りを行うためのポイント
8-3 慰謝料などその他の損害についても対応可能
弁護士が対応するのは、休業損害の請求だけではありません。
交通事故のケガによる賠償金には、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料など複数あります。弁護士は、こうした賠償金の請求にも対応してくれます。
主婦は、会社員と異なり慰謝料の請求において個人判断することが多々あります。知識が足りないと、保険会社が提示する条件に対して、安易に応じてしまうことが考えられます。弁護士に依頼することで、損をする示談交渉を避けられる可能性が高まります。
後遺障害が残った場合にも、その申請手続きをサポートしてもらえます。
【関連記事】後遺障害診断書のもらい方~手続きや取得のポイント
9 まとめ:主婦・主夫も適切な休業損害を請求できます!
主婦の休業損害について解説しました。
労働時間が決まっている会社員と異なり、主婦の休業損害に対する解釈は異なります。中には、主婦の休業損害は認められていないと認識している保険会社もあるので、注意が必要です。
主婦が被害者となる交通事故は客観的な判断に乏しく、保険会社の主張に反論することなく応じてしまう可能性があります。それを避けるためにも、弁護士に依頼するのが賢明でしょう。
弁護士は、被害者に寄り添いつつ公正な立場から休業損害を算出し、保険会社に対して適切な休業損害を主張します。弁護士費用は高額なイメージがありますが、休業損害を含む賠償金の総額が弁護士費用よりも高いことが見込めるのなら、弁護士に依頼するという選択を視野に入れましょう。
慰謝料の増額、後遺障害認定のサポートを中心に、死亡事故から後遺障害、休業損害の請求に取り組んでいます。
交通事故の被害者救済のために、積極的に法律・裁判情報の発信を行っています。
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