交通事故による後遺障害認定(後遺障害等級認定)の結果が出るまでには、一定の期間を要します。
けれども、「認定されるまでに通常よりも長引くケースもある」と聞くと、「自分の場合も、待たされてしまったらどうしよう」と、不安になるかもしれません。
審査が長引くことによって生活が厳しくなることが考えられますし、「認定されずに、慰謝料を請求できなくなるかもしれない……」と、ネガティブになってしまうなど、精神的にも不安定になりがちです。
確かに交通事故による後遺障害が認定されるまで長らく待たされることもありますが、多くのケースでは想定した期間内に結果が出ます。また、長引くには理由がありますし、たとえ期間が長くなったとしても対策はありますので、安心してください。
本記事では、後遺障害認定に時間がかかりやすいケースとともに、認定が遅れる理由や、遅れた場合の対応方法についてご紹介します。
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1 交通事故の後遺障害の認定の期間は60日以内が8割以上
交通事故によるケガで後遺症が残った場合、被害者は加害者に対して慰謝料を請求するために、後遺障害があることの認定を受ける必要があります。
それが、後遺障害認定と呼ばれている制度です。後遺障害認定を受けるには、専門機関に審査を依頼してその結果を待たなければなりません。
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後遺障害認定を行うのは、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所です。
損害保険料率算出機構に後遺障害認定の申請をするには、次のようなプロセスがあります。
・医師から後遺障害診断書を作成してもらう
・任意保険会社(「事前認定」)または自賠責保険会社(「被害者請求」)に必要書類を提出する
損害保険料率算出機構は、医師や保険会社から提出された書類を参照し、損害調査を実施します。後遺障害の有無を調べ、後遺障害が認められた場合は、1級から14級まである後遺障害のどこに区分されるかを決めます。そして、その結果を被害者に通知します。
このように、後遺障害と認定されるまでには、時間がかかることが容易に予想できるでしょう。
損害保険料算出機構が公開している『2021年度 自動車保険の概況』によりますと、後遺障害認定に関する損害調査にかかった期間は、次のとおりです。
損害調査にかかった日数 |
割合 |
30日以内 |
72.7% |
31~60日 |
12.9% |
61~90日 |
7.1% |
91日以上 |
7.4% |
多くのケースでは、調査を開始してから「30日以内」と「31~60日」に調査が完了していることがわかります。その割合は、全体のおよそ85%。約8割のケースは、60日以内に結果が出るということから、交通事故の後遺障害認定にかかる期間は、60日以内と想定できます。
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つまり、「後遺障害認定の審査が長引いている」というのは、申請を済ませてから2か月以上経っても結果が出ない場合に該当すると考えられます。
2 後遺障害の認定に時間がかかるケース
後遺障害の中には、特に認定されるまでに時間がかかるものもあります。時間がかかるケースとして挙げられるのは、以下の3つです。
①高次脳機能障害
②外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)
③複数の後遺障害がある
各ケースについて詳しく見てみましょう。
2-1 高次脳機能障害
「高次脳機能障害」とは、脳が損傷することによって生じる認知障害のことです。例えば、交通事故で脳に外傷を負い、それ以来記憶障害を発症するという場合は、高次脳機能障害にかかっていると考えられます。
高次脳機能障害と認定されるまでの期間は長くなる傾向があり、場合によっては6カ月以上かかることもあります。
主な理由として、
・診断するために経過観察を必要とするため
・他の後遺障害についての損害調査とは別に、専用の審査を受けるため
の2つの理由が挙げられます。
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2-2 外貌醜状
「外貌醜状」とは、外貌(顔や首など体の中で日常的に露出している部位)に、目立つ傷跡が残ることです。
事故によってできた線状の傷ややけどの痕、さらには、ケガを治すために行われた手術によってできた傷跡も、外貌醜状に入ります。
外貌醜状の認定には、他の後遺障害には行われない面接があります。こうしたプロセスの多さが、後遺障害認定期間が長くなる理由といわれています。
2-3 複数の後遺障害がある
複数の後遺障害を抱えている場合も、後遺障害認定されるまでの期間が長くなる傾向にあります。
このケースで結果が出るのは、各後遺障害の調査が終わり、総合的な判断が行われた後です。後遺障害の数が多ければ多いほど調査の数も増えますので、必然的に期間が長くなります。
3 後遺障害の認定に時間がかかる場合の注意点(消滅時効)
交通事故の被害者が後遺障害認定を受けるのは、後遺症に対する慰謝料や逸失利益を加害者に請求するためです。
後遺障害の認定が長引くと、慰謝料や逸失利益を請求するまでに時間がかかります。その際に注意するのは、「消滅時効」によって賠償金を請求できなくなることです。
「消滅時効」とは、定められた期間内に賠償請求が成立しない場合に、請求する権利が消滅することです。
消滅時効は、民法によって定められています(民法724条、民法724条の2。代表的な損害である慰謝料は、損害賠償の一種です)。
損害賠償請求権の時効が消滅するまでの時間は、以下のように異なります。
・損害賠償請求(ケガ):5年
・損害賠償請求(物損):3年
※消滅時効は、法改正により2020年の4月1日から規定が変わりました。
※自賠責保険への被害者請求の消滅時効は、従前と同様に3年です。
消滅時効の考え方ですが、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」(民法724条)から、3年間または5年間が消滅時効の期間です。
「加害者を知った時」とは、「加害者の氏名などが判明した時」を意味します。つまり、消滅時効は、一般的に事故が起きた日からカウントされます。消滅時効の期間中は、「消滅時効が進んでいる」と表現されますが、裁判が行われている間は、消滅時効は停止します(示談交渉中は、「消滅時効が進んでいる」状態です)。
後遺障害認定は、一度認定されなかったとしても、再度申請することは可能です(異議申し立て)。
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その場合は、再審査の手続きや再調査でさらなる時間を要することが予想されます。消滅時効前に賠償請求を終わらせるためにも、遺障害認定の申請はできるだけ早めに行いましょう。
4 後遺障害の認定が遅れている原因と対応方法
後遺障害の認定では、同じ症状であっても速やかに結果が出るケースと認定が遅れるケースとがあります。
なぜこのような差が出てしまうのでしょうか。遅れてしまう原因と、その場合の対応方法について解説します。
4-1 遅れている原因
後遺障害の認定が遅れる原因として考えられるのは、以下の3つです。
①保険会社での手続きに時間がかかっている
②病院・医師の手続きに時間がかかっている
③審査機関(調査事務所)での手続きに時間がかかっている(書類・準備不足)
①保険会社での手続きに時間がかかっている]
後遺障害認定の審査を行う損害保険料率算出機構は、加害者が加入している保険会社から必要な書類を取り寄せて審査を行います。その際、保険会社から書類が提出されるまでに時間がかかることがあります。
保険会社の担当者は、日々数十件から数百件の事故案件の処理に追われていることも珍しくありません。また、事故案件に優先順位をつけて処理する場合もあります。あなたのケースがこれらの理由に該当する場合は、保険会社において手続きが滞り、その結果審査が遅れていると考えられるのです。
②病院・医師の手続きに時間がかかっている
後遺障害認定では、「医師照会」というプロセスがあります。この医師照会とは、審査機関が被害者のかかりつけの病院に対して、書面を通じて後遺症の症状などを問い合わせることをいいます。医師照会は、ほとんどのケースで実施されています。
医師照会ができないと、それ以上審査を進めることができません。そして、病院や医師の都合により、審査機関に対して返答が遅れることがあります。保険会社がすでに書類を提出しているにもかかわらず、審査が長引いているという場合は、病院や医師の手続きに時間がかかっていることが考えられます。
③審査機関(調査事務所)での手続きに時間がかかっている(書類・準備不足)
保険会社から必要書類が提出されていて、かつ医師照会も済んでいる場合でも、審査が遅れることがあります。それは、準備不足のまま書類を提出したことが原因として挙げられます。
後遺障害認定の審査における判断材料は、原則として提出された書類のみです。そのため、書類の記入にあいまいな部分があり、判断しかねるという状況が生じた場合は、その時点で審査がストップしてしまうことが考えられます。
(画像は後遺障害診断書)
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4-2 対応方法
申請してから2か月以上経っても結果の通知が届かないという場合は、何らかの理由で審査が遅れている可能性があります。審査が遅れている場合の対応法として、次の2つが挙げられます。
・保険会社に連絡をする
・弁護士に依頼して被害者請求に切り替え
[保険会社に連絡をする]
認定が遅れているなと思ったら、保険会社に連絡してみましょう。
保険会社が申請手続きの途中であるという場合は、連絡することによって迅速に対応してもらえる可能性があります。
[弁護士に依頼して被害者請求に切り替え]
後遺障害認定の申請は、事前認定から被害者請求に切り替えることが可能です。
保険会社による手続きの遅れは、被害者が任意保険会社または自賠責保険会社のどちらに書類を提出したかによっても起こることがあります。
事前認定の場合は、任意保険会社が審査機関に提出する書類のほぼ全てを準備するため、時間がかかりがちです。
一方の被害者請求では、被害者自身が書類を準備するという手間はありますが、損害保険料率算出機構に直接提出しますので、保険会社での手続きにおいては、事前認定よりも早く進む傾向にあります。
事前認定から被害者請求に変更することは自力でも可能です。しかし、書類に不備などが生じた場合は、申請が終わるまで通常よりも時間がかかるリスクが高くなります。
被害者請求の段階で弁護士に依頼していれば、事前認定から被害者請求にスムーズに切り替えられるだけでなく、審査機関の結果を不服として異議申し立てをするとなった場合には、引き続き依頼できます。
5 後遺障害以外の慰謝料を先に請求する方法
後遺障害が認定されるまでの期間が長引くことによって、経済的に苦しくなる被害者も少なくありません。
その場合は、後遺障害以外の慰謝料を先に請求するという選択肢が出てきます。後遺障害以外の慰謝料には、「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」があります。
入通院慰謝料は、交通事故によってケガをし、その治療のために入院したり通院したりした時にかかった費用に対する慰謝料です。入通院慰謝料が対象としているのは、事故が発生してから治療が完了した日(「症状固定」と診断された日)。すでに金額が明確になっているため、後遺障害認定の結果を待たなくても示談前に請求できる可能性があります。
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入通院慰謝料のみ先に請求する場合は、任意保険会社に対して示談交渉を行います。すべての任意保険会社が示談に応じてくれるとは限りません。心配だという場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。
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6 まとめ:後遺障害認定で遅れている場合は弁護士へご相談ください!
後遺障害認定の期間が長くなる理由と対処法についてご紹介しました。
後遺障害と認定されるまでにはある程度の期間が必要で、その目安は60日以内です。これを目安にすると、無駄に「遅すぎる」と焦る必要はなくなりますし、遅いことに対するアクションを起こしやすくなります。
もし、認定されるまでに必要以上に時間を要しているのなら、保険会社に問い合わせてみましょう。もしくは、被害者請求に切り替えるという方法もあります。被害者請求の切り替えは、弁護士に任せることが賢明です。
後遺障害が認定されるまでの経済問題を解決する方法として、後遺障害の認定を待たずに後遺障害以外の慰謝料を請求する方法をご紹介しました。この場合も、弁護士に相談することでスムーズに問題解決できることが期待できます。
加害者に慰謝料を請求できる時間は限られています。そのためにも後遺障害認定を無事に終わらせるよう早めに行動することが大切です