交通事故紛争処理センターは利用すべき?3つのデメリットと活用可能なケースをご紹介

監修者ベストロイヤーズ法律事務所

弁護士 大隅愛友

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交通事故紛争処理センターは利用すべき?3つのデメリットと活用可能なケースをご紹介

交通事故に伴い発生した示談交渉のトラブルを解決する手段の一つに、交通事故紛争処理センターの利用が挙げられます。

「慰謝料の相場がよくわからないので相談したい」「弁護士に直接依頼するよりも費用がかからない」「できるだけ高い慰謝料を得たい」など、交通事故紛争処理センターを利用する理由はさまざまです。けれども、本当に望むような結果を得られるのかどうか、不安を感じている人も多いのではないでしょうか。

交通事故紛争処理センターは利用しやすさがある反面、デメリットもあります。依頼した後で「失敗した!」とならないためにも、同センターの特徴をよく知ったうえで利用するかどうか決めるようにしましょう。

本記事では、交通事故紛争処理センターのデメリットと、活用できるケースについて解説します。

 

1 交通事故紛争処理センターとは

交通事故紛争処理センター.jpg

交通事故紛争処理センターは、1974年に発足した公益財団法人です。裁判に持ち込まずに示談交渉で紛争を解決しようとする制度のことを「裁判外紛争解決手続き(ADR)」といいますが、交通事故紛争処理センターは、ADR機関の一つです。発足以来交通事故の示談交渉における紛争解決を支援してきました。

交通事故紛争処理センターができることは、以下の3つです。

①示談交渉に関する相談

②委嘱弁護士による和解あっ旋の手続き

③審査会による裁定

1-1 示談交渉に関する相談

交通事故紛争処理センターでは、和解あっ旋をする・しないにかかわらず、事前の相談が可能です。交通事故の被害者(申立人)から依頼を受けると、同センターは初回相談のセッティングを行います。相談日当日は、相談担当弁護士が申立人と面会して、示談交渉に関する問題について話し合います。

1-2 委嘱弁護士による和解あっ旋の手続き

申立人が和解あっ旋を希望する場合、同センターの委嘱弁護士が担当し、和解あっ旋に向けて申立人と加害者双方に和解案を提出します。

1-3 審査会による裁定

もし和解に至らなかった場合は「あっ旋不調」となり、申立人は審査会に申立できます。申立を受けた審査会は、ケースを受理するかどうか判断し、受理した場合は審査後裁定案を出します。

交通事故紛争処理センターのメリットは、相談から裁定までほぼ無料で利用できるという点です。無料で弁護士から示談交渉のサポートを受けられることは、利用しやすさにつながります。同センターが公開している資料によりますと、2021年4月から2022年3月の間に寄せられた相談件数は、「新規」と「再来」あわせて16,685件ということです。

・参考:2021年度(令和3年度) 取扱事案分類統計

このように、交通事故紛争処理センターは示談交渉をめぐる紛争の解決に向けた体制が整っていますが、ケースによってはベストな選択肢といえないこともあります。次の章から、同センターのデメリットについてご紹介します。

2 デメリット①:交通事故紛争処理センターでは対応できないケースがある

交通事故紛争しょろいセンターでは対応できないケース

交通事故紛争処理センターは万能ではなく、中には対応できないケースもあります。

自動車事故において対応できない主なケースとして挙げられるのは、以下の2つです。

①加害者が任意保険に加入していない

②賠償金の請求以外で争っている

それぞれ詳しく見てみましょう。

2-1 加害者が任意保険に加入していない

加害者側が同意した場合を除き、交通事故紛争処理センターは、加害者が任意保険に加入していないケースには対応していません。同センターのホームページに、その旨が明記されています。

“次の場合は、センターにおける本手続きを行いません。 ただし、相手方が同意した場合は、本手続きを行う場合があります。

加害者が任意自動車保険(共済)契約をしていない場合

加害者が契約している任意自動車保険(共済)の約款に被害者の直接請求権の規定がない場合

加害者が契約している任意自動車共済が、JA共済連、こくみん共済 coop(全労済)、交協連、全自共又は日火連以外である場合 引用:ご利用について(公益財団法人交通事故紛争処理センター)

2-2 賠償金の請求以外で争っている

交通事故紛争処理センターは、示談交渉の段階で生じた紛争を解決することを目的としています。そのため、正確に賠償金額が出ていない、または争点が示談交渉以外にもあるケースに介入することはない点に注意しましょう。例えば後遺障害等級の認定をめぐって争っている場合、交通事故紛争処理センターの支援を受けることはできません。後遺障害等級認定の手続きの結果を待っているという場合も同じです。

【関連記事】後遺障害が認定されたらどうなる?認定や示談の流れ、弁護士に依頼するメリットについて

【関連記事】後遺障害の異議申し立てについて~具体的な流れや成功するためのポイントを解説

その他交渉以外の争いとして、

・過失割合をめぐる争い

・保険会社からの求償請求に関する紛争

・共済金の支払いをめぐる争い

などが挙げられますが、いずれの場合も支援対象外です。

3 デメリット②:弁護士に直接依頼する場合よりも賠償金は低額になることがある

交通事故紛争処理センターは、弁護士と同じように裁判基準で賠償金を算定します。裁判基準とは、弁護士が慰謝料などの賠償金を算定する際に用いる基準のことで、算出される賠償金は、他の基準(「自賠責基準」と「任意保険基準」)よりも高額になるといわれています。

交通事故紛争処理センターに依頼した場合、

・遅延損害金を請求できない

・賠償金請求の増額が見込めない場合がある

という特徴があります。

各特徴について、詳しく説明します。

【関連記事】もらい事故の慰謝料の特徴|慰謝料増額のための4つの方法を徹底解説

3-1 遅延損害金を請求できない

交通事故が発生してから賠償金が支払われるまでに、一定の時間がかかります。特に裁判になると長引く傾向があるため、被害者は支払いが遅れることに対する賠償金(遅延損害金)と、弁護士費用を加害者側に請求できます。

ところが、交通事故紛争処理センターを利用した場合、遅延損害金の請求は不可となります。その結果、同センターを利用して解決した場合に支払われる賠償金は、弁護士に直接依頼した場合よりも低額になる傾向にあるのです。

3-2 賠償金請求の増額が見込めない場合がある

交通事故紛争処理センターが算出する賠償金額は、弁護士のそれよりも低い傾向にあります。これは、同センターが公平中立の立場にあるということが影響しています。

交通事故によるケガが原因で100%働けなくなったことが明らかな場合は別ですが、少しでも「事故以外の原因という可能性があるケース」では、中立の立場から適切な判断を下そうとします。そのため、被害者の立場に立って賠償金を請求しようとする弁護士と比べると、やや控えめな金額になりやすいのです。

4 デメリット③:被害者に負担がかかる面がある

交通事故紛争処理センターを利用する場合、申立人は示談交渉に必要な業務を任せっぱなしにするということはできません。どういうことなのか、以下にご紹介します。

4-1 被害者がセンターへ出向いて手続きや準備をする必要がある

交通事故紛争処理センターでは、示談交渉に関する相談や和解あっ旋などの業務を行っていますが、これらの支援を受ける場合は、原則として手続きや和解あっ旋の場に出席する必要があります。

交通事故紛争処理センターの本部は新宿区(東京都)にあり、支部または相談室の所在地は、以下の10か所です。

・札幌市(北海道)

・仙台市(宮城県)

・名古屋市(愛知県)

・大阪市(大阪府)

・広島市(広島県)

・高松市(香川県)

・福岡市(福岡県)

・さいたま市(埼玉県)※

・金沢市(石川県)※

・静岡市(静岡県)※

※は相談室

通いやすい場所にあればそれほど問題はないかもしれませんが、遠くにある場合は、時間的・経済的に負担を感じるでしょう。また、手続きに必要な書類は、申立人自ら準備する必要があります。弁護士に依頼した場合は書類の作成や手続きを任せられることを考えると、交通事故紛争処理センターの利用には、やや不便な面があるといえます。

4-2 被害者は自分で担当弁護士を選べない

交通事故紛争処理センターに和解あっ旋を依頼すると、委嘱弁護士を紹介してもらえますが、申立人は自ら担当弁護士を選べません。さらに、一度紹介してもらったら他の弁護士に変えることができず、最後まで同じ弁護士が対応します。

相性が合えばいいですが、そうでない場合は不満を感じることがあるかもしれません。

4-3 予約を取りにくい可能性がある

交通事故紛争処理センターには利用しやすいというメリットがある反面、予約が取りにくいというデメリットもあります。利用者が殺到すると、面接相談の予約を取るまでに数か月以上もかかってしまうこともあるのです。また、同センターの業務は平日のみであることから、スケジュールを調整しにくいことも考えられます。

5 交通事故紛争処理センターを活用できるケース

交通事故紛争処理センターが得意とするケースには、以下の3つがあります。

① 後遺障害等級認定や過失割合などの問題がないケース

② できるだけ費用をかけずに示談を進めたいケース

③ できるだけ早く示談金を受け取りたいケース

5-1 ①後遺障害等級認定や過失割合などの問題がないケース

加害者との争点が賠償金の請求以外にないという場合は、交通事故紛争処理センターに任せるのが無難でしょう。

無料で利用できるというのもそうですが、裁判に持ち込まないことを前提としているため、加害者側に弁護士がつくということはほぼありません。そのため、慰謝料の請求以外に新たな問題が持ち上がる可能性が低く、そのまま和解に至りやすくなります。仮に審査会に進んだ場合、加害者側の保険会社はその裁定結果を拒否することはできません。つまり、申立人が有利になる状況になりやすいということです。

【関連記事】交通事故の後遺障害認定の期間は|遅い場合の効果的な対応方法

5-2 ②できるだけ費用をかけずに示談を進めたい場合

できるだけ費用をかけることなく弁護士の支援を受けて示談交渉をしたい場合は、交通事故紛争処理センターを利用するとよいでしょう。弁護士に直接依頼するよりも、費用は安く済む傾向にあります。

弁護士に直接依頼した場合は、相談する時点で費用が発生しますが、交通事故紛争処理センターでは無料です。また、和解あっ旋や審議会の手続きも費用がかかりません。近くに交通事故紛争処理センターがあり、交通費も苦にならないという場合は、同センターの利用を検討するとよいでしょう。

ただし、弁護士特約が使える場合には、ほとんど費用なく弁護士へ依頼できるため、弁護士保険がある場合には、弁護士の利用も検討できます。

【関連記事】「弁護士特約の利用は保険会社が嫌がる」ことなの?3つの理由と対応方法

5-3 ③できるだけ早く示談金を受け取りたい場合

交通事故紛争処理センターを利用して和解あっ旋までスムーズにいった場合の解決にかかる期間は、4か月程度といわれています。来訪回数にすると、約3~5回。1~3回の来訪で7割ほどのケースで和解が成立し、5回の時点では、9割ほどのケースが解決に至っています。

・参考:2021年度(令和3年度) 取扱事案分類統計

例えば、弁護士に直接依頼して裁判まで持ち込んだとすると、解決するまでに1年ほどかかります。それを考えると、交通事故紛争処理センターに依頼した方がスピーディーに解決できるといえるでしょう。

6 こんな時は弁護士に相談しよう

こんな時は弁護士に相談しよう.jpg交通事故紛争処理センターが苦手としているケースには、以下のものがあります。

過失割合後遺障害等級で争っているケース

裁判に持ち込まれる可能性が高いケース

・できるだけ高額の慰謝料を請求したいケース

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・できるだけ負担を軽くして示談交渉を進めたいケース

6-1 過失割合や後遺障害等級で争っているケース

例えば高齢の被害者が交通事故で頭に軽傷を負い、その後物忘れなどの症状が出た場合、それが事故によるものか、または認知症(高齢になると発症しやすい)の症状によるものかで争われることがあります。こうしたケースは、素人では対処しきれないことですので、弁護士に依頼した方が早期解決につながるでしょう。

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6-2 裁判に持ち込まれる可能性が高いケース

交通事故紛争処理センターで審査会に申立をして以下の結果になった場合は、同センターの支援はその時点で終わります。

・申立が受理されなかった

・裁定結果に同意できなかった

そうすると、問題を解決するために残されているのは、このままあきらめるか、または訴訟に持ち込むかのどちらかです。示談交渉の段階で裁判になる可能性が考えられる場合は、弁護士に依頼するのが得策でしょう。弁護士に依頼した場合、話し合いが決裂した時点で裁判に持ち込むことが可能です。

6-3 できるだけ高額の慰謝料を請求したいケース

弁護士は、依頼主(交通事故の被害者)の立場に立って、賠償金の請求をします。さらに、手続きの進行状況に応じて、遅延損害金の請求も可能です。交通事故紛争処理センターは、遅延損害金の請求ができないうえ、「中立」「迅速な解決」というスタンスから賠償金を算出するため、「できるだけ高額の慰謝料を請求したい」という希望との間にずれが生じがちです。この場合は、被害者の立場に立ってサポートしてくれる弁護士に依頼するのが無難でしょう。

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6-4 できるだけ負担を軽くして示談交渉を進めたいケース

交通事故紛争処理センターを利用した場合、被害者には

・手続きなどで最寄りのセンターに行かなければならない

・手続きに必要な書類は自分で用意する必要がある

というふうに、自分でしなければならないことが多々あります。

その点、弁護士に依頼すると

・書類の作成

・慰謝料をめぐる交渉

・裁判に必要な手続き

などを代行してもらえます。

費用はかかりますが、できるだけ精神的・時間的な負担を軽減したい場合は、弁護士がおすすめです。

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7 まとめ

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交通事故紛争処理センターのデメリットと、活用できるケースについて解説しました。

交通事故紛争処理センターの主なデメリットは、以下の3つでした。

① 交通事故紛争処理センターでは対応できないケースがある

② 弁護士に直接依頼する場合よりも賠償金は低額になることがある

③ 被害者に負担がかかる面がある

これらのデメリットから、同センターを活用できるケースとして、以下の3つを挙げました。

① 後遺障害等級認定や過失割合などの問題がないケース

② できるだけ費用をかけずに示談を進めたいケース

③ できるだけ早く示談金を受け取りたいケース

交通事故紛争処理センターの利用を決める際は、慰謝料の請求だけが争点なのかどうか見極めることが大切です。問題の解決に向けて適切に行動し、満足の行く結果を得ましょう。

監修者

ベストロイヤーズ法律事務所

代表弁護士 大隅愛友

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